研究紹介
当研究室では,火災などの災害に対してレジリエントな建築物・都市を実現するための研究を行っています.ここでは,最近手掛けた(手掛けている)研究について紹介します.
木造建築物のリスクベース防耐火設計法の開発
建築物の防耐火設計では,一般に,特定の火災シナリオの下での安全性を決定論的な方法で確認することで建築物の法適合性が検証されます.しかし,その建築物で発生が想定される火災の状況は,一つの火災シナリオの中で網羅しきれない様々な条件に左右されるため,火災シナリオを設定する場合には大きな安全代を確保せざるを得ません.特に木造建築物については,これまで仕様規定に基づいて設計が行われてきたこともあり,関連する議論が十分に深まっていません.そこで本研究では,火災安全性能を左右する各種不確実要因の影響を考慮したリスクベース防耐火設計法の開発することで,防耐火設計の合理化を図るための取り組みを進めています.

火災被害を受けた建築物の機能維持性能評価手法の開発
建築基準法の要求水準は,生命の保護等の観点から必要とみなされる最低限の水準に留められているため,基準に適合した建築物でも火災時の被害が大規模化し,長期間にわたって使用できなくなったり,建て替えが必要となる事例が散発しています.しかし,従来の建築物の火災安全性能評価においては,避難安全や倒壊防止といった直接的な被害の防止に重点が置かれ,機能低下の防止に着目した議論はほとんど行われてきませんでした.そこで本研究では,建築物の状態遷移を確率的に記述することで,火災被害を受けた建築物の機能維持性能を評価する手法の開発を行っています.


関連文献
- Himoto K, Sawada Y, Ohmiya Y. Quantifying fire resilience of buildings considering the impact of water damage accompanied by fire extinguishment, Reliability Engineering & System Safety, Volume 243, 109858, 2024
- Himoto K, Suzuki K. Computational framework for assessing the fire resilience of buildings using the multi-layer zone model, Reliability Engineering & System Safety, Volume 216, 108023, 2021
- Himoto K. Conceptual framework for quantifying fire resilience – A new perspective on fire safety performance of buildings, Fire Safety Journal, Volume 120, 103052, 2021
画像解析技術を活用した効率的な火災荷重調査法の開発
建築物の防耐火設計では,火災荷重(単位面積あたりの可燃物の重量または総発熱量)に基づいて火災が発生した場合の危険性を評価しています.火災荷重は,過去の実態調査の結果に基づいて設定されていますが,その実態は社会状況に応じて変化を続けているものと考えられます.このため,防耐火設計の枠組みの信頼性を維持・向上させるには,情報の拡充と定期的な更新が必要です.そこで本研究では,深層学習に基づく画像解析技術を活用することで,効率的な火災荷重調査法の開発を行っています.

火災シナリオに基づく文化財建造物の防火管理体制検証法の開発
火災に対して脆弱な文化財建造物の価値を将来にわたって維持していくには,一般の建築物に講じられる対策の枠には捉われない幅広い対策の実施が求められます.しかし,その内容は経験的に決められる場合が多く,何をどこまで対応すれば十分なのか,目安があるわけではありません.そこで本研究では,火災シナリオに基づいて文化財建造物の安全性を検証する手続きの開発を行っています.


市街地と林野部の境界で発生する大規模屋外火災の物理的延焼シミュレーションモデルの開発
2025年3月に大船渡市の山林で発生した火災は,多数の建物を巻き込み,過去に例を見ない大きな被害を出しました.こうした大規模屋外火災のリスクを定量的に評価することは,今後の対策を考える上で不可欠です.本研究では,市街地火災と林野火災を対象としてそれぞれ独自に開発されたモデルを統合することで,境界で発生する火災の延焼を物理的に予測するための開発を行っています.
